施術を受けるのが好きな方から、よくこんな声をいただきます。
「自分で押してもあまり気持ちよくないのに、人に押してもらうとすごく気持ちいい」
…そんな感覚、あなたにも心当たりがあるのではないでしょうか?
似たような現象として、「人に触られるとくすぐったい」という感覚もあります。
実はこれらの「感じ方の違い」には、共通する理由があるんです。
そのカギを握っているのが、私たちの「脳の働き」。
くすぐったさの研究から見えてくる、“感覚の違い”のメカニズムとは――
くすぐったさの研究から見えてくる「感覚の違い」
ある脳科学の研究(Nature Neuroscience誌, 1998年)では、
こんな興味深い実験が行われました。
- 自分で触ったときと
- 他人に同じように触られたとき
脳がどう反応するかをfMRI(脳の画像検査)で調べたところ、
結果は驚くものでした。

他人からの刺激は「強く」感じる
実験では、
<外部>から触れられたときの方が、
脳の感覚野(体性感覚野)が強く反応したことが確認されました。
つまり、
「人にやってもらう方が感覚が鋭くなる」ということ。
一方で、自分の手で触った場合は、
脳(特に小脳)が「この動きは自分のものだ」と判断し、
あらかじめ刺激を予測して感覚を抑えるように働きます。
だから、
自分でくすぐっても、くすぐったくない
自分で押す足つぼは、刺激が「鈍く」感じやすい
という現象が起きやすいのです。
自分の動きは、脳が<予測>して
感覚を抑える仕組みになっているのだそうです。

足つぼでも起きている「脳の感覚調整」
足つぼにも、まさにこの仕組みが働いています。
・ 自分で押すと、「ここは痛そうだから少し弱めに…」と加減してしまう
・ 人にやってもらうと、思いがけない刺激に脳が反応し、より深いところまで届くような感覚が生まれる
この“感じ方の違い”には、次のような脳と身体のメカニズムが関係しています。
1.予測補正
脳は「これから押す」と自分で予測すると、その刺激に備えて感覚を無意識に弱めてしまいます。
2.自己防衛反応
痛みを避けようとして、無意識に力をセーブしてしまうのです。
(痛みはカラダにとってそもそも危険信号です)
3.感覚の分散
押す側と感じる側が同じだと、脳の注意が<分散>し、感覚がぼやけてしまいます。
こうした反応は、決して“気のせい”ではありません。
神経科学の視点からも、しっかりと説明できる現象なのです。
自分で押すケアと、受けるケアの違いを知る
足つぼには、自分で「気づき」を得るセルフケアの力と、
他者から受けることで深く緩む「ゆだね」の力の両方があります。
どちらも異なるルートで、あなたを本来のバランスへと導いてくれます。
自分の手で足に触れる。
押してみて、痛い・硬い・冷たいと感じる。
その感覚は、今の自分の状態を“見える化”してくれる鏡のようなものです。
「このツボが痛い日は、だいたい寝つきが悪い」
「今日はここが痛い。昨日はそうでもなかった」
「朝より夜の方が張ってるかも」
こんな風に比較をすることが習慣化されることで
自分の内側の変化に気づけるようになり、
その先には、「予防できる身体」や「選択できる自分」が待っています。
痛くなる前に対処できる。
なんとなく不調の“前触れ”を察知できる。
自分の感覚を信じて動けるようになる。
それがセルフケアの未来です。
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一方で、人に触れてもらう時間は、ただのリラクゼーションではありません。
「自分を明け渡す」という深い受容の時間です。
「自分では届かなかったところに手が届く」
「無意識に避けていた“感情”がふと浮かぶ」
「何も考えなくていい」ことに、安心して癒される
自分では触れられなかった“深部”に手が届くことで、
固まっていた何かがほどけ、気づかなかった自分に出会えます。
それは、普段頑張っている自分へのご褒美と思えたり、
「ただ在るだけでいい」と感じられるような、心の調律でもあります。
どちらが正解ではなく、両方を持っている人が一番強い
どちらも大切。
でも違うアプローチで、違う脳のスイッチが入っていきます。
自分で自分を整える力と、
必要なときに誰かにゆだねられる柔らかさ。
この2つのスイッチを行き来できる人は、
不調に左右されにくく、しなやかに生きていける人だと思いませんか?
足つぼは、単なる健康法でも、痛みを我慢するだけのものでもありません。
それは、自分とつながり直す“感覚の扉のようなもの。
誰かの手で触れられることで、
気づかなかった自分に出会えたり。
自分の手で触れてみることで、
今ここにいる「わたし」と対話ができたり。
足つぼの技術を学ぶ前は、「施術を受ける専門」だった店主。
そんな店主が新たな一歩を踏み出し、自ら技術を習得したことで、
足つぼの魅力をさらに深く知ることになりなった経験のエビデンスを紹介しています。
これは、足つぼへの愛が一層深まった、ひとつの印象的な体験です。
引用元:Central cancellation of self-produced tickle sensation (Nature, Nov 1998)
「人はなぜ自分で自分をくすぐってもくすぐったく感じにくいのか?」
という疑問を、脳の“感覚調整機能”の観点から解き明かす研究のタイトルです。